引用開始→ 「シティ・ターボⅡ"ブルドッグ"再来」ホンダ新小型EV「Super-ONE」やんちゃな見た目とジェントルな走りのギャップ
(東洋経済新報社 2026/04/10 14:15 西村 直人)
「今さらホンダのEV(電気自動車)か……」という色眼鏡なしでお読みいただきたい。なお、最近では一般的に電気自動車をBEV(バッテリー式電気自動車)と呼ぶことが多いが、本記事ではホンダの表記にならいEVとしている。
このタイミングでホンダがEVを発表した理由
新しいホンダの小型EV「Super-ONE(スーパー ワン)」が発表された。ホンダのEV戦略といえば、三部社長が2026年3月12日の「四輪電動化戦略の見直しに伴う損失の発生および通期連結業績予想の修正と今後の方向性について」のなかで発表した電動化車両の見直しが記憶に新しい。その概要は以下のとおり。
・米国での関税政策の変更に伴うICE(内燃機関車)/HV(ハイブリッド車)の事業への影響や、EV開発へのリソースシフトの影響によるアジアでの商品競争力の低下により、直近では四輪事業の収益性が悪化。
・米国で生産予定だったEV3車種「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の開発・発売の中止などを決定。
・米国でのEV市場の拡大スピードの鈍化を踏まえてリソース配分を見直し、HVを強化。
・国別には、日本や米国に加えてインドでの事業を強化するため、モデルラインナップ拡充やコスト競争力の強化を図る。
・その他のアジア各国においても、次世代HVの発売やリソース配分の見直しによる競争力強化に取り組む。
では、なぜSuper-ONEを発表したのかといえば、3月の見直し前から着々と開発が進められてきたからだが、同時に想定しているユーザーに響くと踏んだからにほかならない。
言い換えれば、ホンダは「HVを含むICEか、それともEVか」の二者択一論を選択したわけではなく、「HVを強化する」と針路を変更したわけで、今回のSuper-ONEのように最適と思われる国と地域には、この先もEVを導入する。事実、Super-ONEはイギリス市場で「Super-N」として販売される。
Super-ONEの発売を前にクローズドコース「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」(千葉県袖ケ浦市)で試乗する機会を得た。本コース(2436m)を2周×2回の計4周した限りながら、そこでの体感点を項目ごと整理し7つのポイントとしてお伝えしたい。
なお、今回は正式発売前とあり、ボディサイズや採用技術の詳細など、細かなスペックは未公表だった。
ブリスターフェンダー採用の“やんちゃ”なスタイル
①外観。見た目はご覧のとおりワイルド。「e: Dash BOOSTER」をコンセプトに、楽しさ/面白さ/達成感と刺激をサブキーワードとして開発されただけあり、パッと見た瞬間からワクワクするデザインだ。
軽自動車のEV「N-ONE e:」(25年9月12日発売)をベースに、前後にブリスターフェンダーを装着して軽自動車枠から登録車サイズに拡大した。これは主に前後バンパー拡大によるもので、A/B/Cピラーの位置関係やルーフ、前後ドアはN-ONE e:と同様だ。拡大の狙いはデザイン性だけでなく、走行性能を高めるためで、前後のトレッドはN-ONE e:比で前後とも50mm幅広に設計した。
ちなみに今回のタイミングでは、Super-ONEが5ナンバーサイズなのか3ナンバーサイズなのかは明らかにされなかった。しかし、見た目からすれば全幅は1700mm以下と道路運送車両法上の小型車に分類されるのではないかと推察している。
前グリル左側にはバッテリー冷却用の導風口を設け、左右下部にもやはり導風と整流を目的にしたスリットを配置。スリットから採り入れた風は前輪のホイールハウス内を通り、前輪後部のスリットから抜けていく。この処理は後輪側でも同様に施される。大型化された後バンパーにあわせてテールゲート下部も拡大させた。
これらのデザイン調和から、Super-ONEでは想定するユーザー層を50代と20代前半とした。すなわち50代には、往年の「シティ・ターボⅡ」(1983年11月10日発売/通称:ブルドッグ)をイメージさせ、20代には、新しさとエモさの共存を狙った。これは20~30代前半にこのところ訪れている80~90年代ブームに乗っかった格好でもある。
タイヤサイズは185/55R15(YOKOHAMA ADVAN FLEVA)とN-ONE e:の165/65R14から直径にして約26mm大きくなり、約39mm幅広化。これに専用デザインを施したアルミホイールに組み合わせる。「デジタルスポークホイールと名付けた新作のホイールです。デザイン面では新しさと往年の安定感を両立させ、機能面では軽量化と高剛性を両立させました」とは森下秀一さん(本田技術研究所デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ デザイナー)。
ボディカラーは、新色の「ブーストバイオレット・パール」のほか、「プラチナホワイト・パール」「クリスタルブラック・パール」「チャージイエロー」「ルミナス・グレー」の5色をラインナップ。また、クリスタルブラック・パールi以外はルーフをブラックアウトした2トーンカラーも設定
ボディカラーは、新色の「ブーストバイオレット・パール」のほか、「プラチナホワイト・パール」「クリスタルブラック・パール」「チャージイエロー」「ルミナス・グレー」の5色をラインナップ。クリスタルブラック・パール以外はルーフをブラックアウトした2トーンカラーも設定
カラーリングは全5色。新色で「上司に直訴して採用してもらいました!」とデザイナーである森下さん入魂の「ブーストバイオレット・パール」も刺激的だが、筆者の一押しは「プラチナホワイト・パール」でモノトーン仕様。ルーフやリヤゲートがブラックになる2トーンもあるが、ブリスターフェンダーの迫力と端正なボディデザインは、まばゆい白色でまとめられるとクセになる。それほど印象深かった。
シティ・ターボⅡを想起させるインテリア
②内装。シティ・ターボⅡ同様の2トーンカラーシートにアクセントカラーのブルーラインを左右非対称にあしらった。「この非対称には、50代の父親と20代の息子さんの2世代で乗ってもらいたいという願いを込めています」と前出の森下さん。
車内中央には、N-ONE e:と同じく9インチモニターが付くが、Super-ONEではホンダの上位車種と同じくGoogleを搭載した。Apple CarPlayやAndroid Autoも便利だが、やはりスマートフォンとの接続なしに専用回線でGoogleの各アプリが使えるのは便利だ。
③パワーユニット。搭載する駆動モーター(MCF7型)と二次バッテリー(29.6kWh)は、ホンダ軽EV量産第1弾の「N-VAN e:」やe:N-ONE e:と基本は同じ。駆動方式も同じくFF(前輪駆動)だ。しかし、乗り味はN-ONE e:と大きく異なる。
特徴は以下のとおり。
N-ONE e:比で60kg増に抑えた1090kgの車両重量、スクランブルモードならぬ「BOOSTモード」により得られた70kW(95.2PS)の最高出力、N-ONE e:から採用したクイックレシオの電動パワーステアリングに施された専用セッティング、N-ONE e:比で50mmワイドになった前後トレッド、専用サスペンション設定&専用アルミ鍛造ロアアーム、車輪と車軸を締結するハブ剛性の強化、ブレーキサイズの拡大(前ディスク径13→14インチ、後ドラムピストン径φ15→φ19mm)、左右等剛性ドライブシャフトなど。
NORMALモードの走行性能
④NORMALモードの走行フィール。5つあるドライブモード(ECON/CITY/NORMAL/SPORT/BOOST)のうち、今回の走行で試したのはNORMALとBOOSTの2モード。NORMALは素の状態を、BOOSTでは最大能力をそれぞれ試した。
NORMALでは、公道での走行をイメージして走らせる。まずは一般道路の法定速度である60km/hあたりでスムースな加減速を行いながら、ゆっくりとしたステアリング操作で感覚をつかむ。この試乗の数日前にN-ONE e:に試乗していたこともあって、違いが明確に感じ取れた。
まず、加速操作に対してプラットフォーム(車体の土台)が大きくなったかのようなどっしり感が生まれた。大径&幅広タイヤとアルミ鍛造ロアアームの採用により、前後トレッドを拡大しつつバネ下重量を軽減し、それらの相乗効果で下半身の安定感が大きく増えた。意図的にコーナーでは縁石に乗り上げてみたが、この速度域ではストンと足元がきれいにいなし、ボディは外乱をほとんど受けない。
減速にしてもそうだ。しっとり滑らかで、それでいて十分な制動力を発揮する。N-VAN e:やN-ONE e:と同じ構造の電動サーボブレーキを採用するSuper-ONEだが、サイズ拡大によって得られた高い制動力により実質的な制動性能が向上した。それだけでなく電動サーボブレーキの高い分解能によって、制動性能が高められたブレーキシステムであっても気難しさはなく、タッチのきめ細やかさはそのまま活かされている。
高速道路を想定して速度を上げていく。100~120km/h付近であっても鉛直(上下)方向の振動は高まらず、優れた直進安定性もそのままだ。80km/h以下でN-ONE e:を走らせている印象に近いか。この速度域になっても乗り味にはどっしり感がある。元気いっぱいの外観からはちょっと想像できないほどの大人びた走行フィールだ。
「NORMALモードの動力性能そのものは出力特性の違いを設けたもののN-ONE e:とほぼ同じと考えてください」と解説くださったのは河津礼可さん(本田技術研究所 四輪開発センター アシスタントチーフエンジニア)だ。たしかにN-ONE e:と同じような体感値だが、足腰がしっかりしているぶん、特性は同じであってもアンダーパワー感を抱いた。
Super-ONEで追加されたBOOSTモード
⑤BOOSTモードの走行フィール。続く2周は、本領を発揮させるべくBOOSTモードを確認する。ステアリング右側スイッチ群の内側に設置されたBOOSTボタン(メタル調の紫色)を押し、アクセルペダルを深く踏み込む。その瞬間に「あ、これですね!」と、Super-ONEが目指した姿を目の当たりにし思わず声が出た。BOOSTモードでは最高出力を軽自動車の自主規制枠である64PSから95.2PSへと拡大しつつ「仮想有段シフト制御」でリズミカルな走りをアシストする。
仮想有段シフト制御は、A:仮想7段ステップシフト、B:スポーツアダプティブ制御、C:変速演出の3つの技術に、D:アクティブサウンドコントロールを組み合わせることで実現させた。
Aは一般的なCVTのスポーツモードのように、アクセルペダル開度を一定にしてもあるタイミングを境にモーター回転が落ち込んだ(≑疑似変速)かのような制御。
Bはカーブ進入時などの減速時、自動的に疑似ギヤ段上のシフトダウン(アーリーDOWN制御)を行い、カーブ走行中は落とした疑似ギヤを保持する(コーナリングホールド制御)。
Cは疑似変速をさせる瞬間の回生制御のこと。有段ギヤでの変速時に発生する瞬間的な振動を模擬し、極めて軽いコツンというショックを回生制御で生み出して躍動感を抱かせる。
ステアリングに装備されるパドルシフターでは、仮想有段シフト制御を任意でコントロールできる。
またBOOSTモードでは、二次バッテリーのSOC(State of Charge/充電量)に関わらず、電流制限を解除し200A程度を保つことで、可能な限り95.2PS(70kW)を絞り出す。
しかしそうなると、バッテリー内部ではイオンの動きが活発になり発熱量が増えるためSuper-ONEでは、グリル左側(左ヘッドライト脇)に設けた導風ダクトからダイレクトにラジエーターを冷却して温度上昇を抑えるのだ。
シティ・ターボⅡでは右ヘッドライト脇に空冷式インタークーラーの導風ダクトが設けられていたが、ここは機能面からくるオマージュともいえよう。
仮想有段シフト制御だが、「プレリュード」に搭載された「Honda S+ Shift」に似ているなと思い河津さんに伺うと、「はい、Honda S+ Shiftに着想を得ています。厳密にいうと同じではありませんが、B:スポーツアダプティブ制御の考え方を採り入れました」。
個人的には、聴覚を刺激するD:アクティブサウンドコントロールの音設定が絶妙で、スポーツ走行での解像度をグンと高めてくれた。前後ドア4つに加えて内燃機関からの音源をイメージして車内前方中央に1つ、合計5つのスピーカーを配置する。
EVでは音の発生源が限られることから、スポーツ走行時の迫力に欠けるという意見もある。そこで、こうしたサウンドシステムが登場したわけだが、Super-ONEのそれはV8のドロドロ感と、V10特有のハミングがミックスされたような芯を食う重厚な音域で、Super-ONEの全域トルクフル(162N・m)の走りにドンピシャだ。
試乗前にアクティブサウンドコントロールの説明を伺った際は、「VTEC高速モードのような飛び抜けた音域」を想像していたが、EVは瞬間的に立ち上がる駆動トルクが美点のひとつだけに、乗ってみれば、こうした腹に響かせるような重厚さがしっくりくるのだな、と感心した次第。
低重心化により安定感が増したハンドリング
肝心のハンドリング性能は、筆者の想像から30%増し。N-ONE e:から採用のクイックレシオの電動パワーステアリングはドライブモードに連動していて、NORMALだとアシスト量が多めで軽さが気になったが、BOOSTではアシスト量が変更され手応えが増し、施された専用セッティングの足回りとの連携がよりスムースになった。
とくに握り拳1つぶんの動きに対して従順に反応してくれる。かといって機敏過ぎることもないから、たとえば滑りやすい路面であっても安定感はそのまま。ここは重量物である29.6kWhの二次バッテリーは車体中央に置かれ、されに低重心化されたことの効果も大きい。

BOOSTモードに連動して、メーターが専用の3連モード(バッテリー温度/仮想エンジンのタコメーター/パワーメーター)になり、メーターパネルそのものと、車内イルミネーションカラーもブルーから紫に変更され統一感を高める。
⑥航続距離。AER(All Electric Range/満充電で走行可能な距離)はWLTC値で274kmとN-ONE e:の295kmから21km低下するが、これは高められた走行性能とのトレードオフ。ただし、BOOSTモードを多用すると「274kmから落ち込みます」(前出の河津さん)というが、これも電力を消費してエクストラパワーを得ているだけに納得だ。
ワクワクが詰まった新EVカテゴリーに期待
⑦まとめ。「特に乗用車をはじめとする小型モビリティにおいては長期的視点ではEVが最適解である」(冒頭会見での三部社長)という発言は、いわゆるパーソナルモビリティの概念と共通し、人ひとりあたりの移動時に発生するCO2の発生量が抑えられるという発想から来ていると想像する。
「小型モビリティにおいては長期的視点ではEVが最適解」という発言。改めてこの部分をSuper-ONEを通して考えてみると、小さく軽く造れたからこその楽しさと、全域トルクフルで痛快な走りが両立しているように思える。そう考えると、Super-ONEは「時流にそったEVの小型モビリティ」として、ひとつのカテゴリーを築いたのではないかと考えられる。
また個人的には「Honda e」(20年10月30日発売)を今でも高く評価していて、そこでの経験がSuper-ONEでは随所に活かされていると感じられた。トヨタ、日産、スバル、そして輸入車と、ここにきて日本市場のEV(BEV)は新型車が続く、まさしく百花繚乱だ。←引用終わり