ウィークリー・ベトナム・ニュース
■ 平成19年4月7日 土曜日 第109号
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■ こんにちは!!
いつもお世話になっておりますベトナムから、ニャットアインです。
今日もここ一週間のベトナムの主なニュースをご笑覧下さい。
翻訳は直訳とせず、日本語に馴染む意訳としておりますので、ご注意下さい(笑)また、訳者の独断と偏見を交えた辛口寸評を入れてみました。内容が片寄り、言葉が多少過ぎる箇所も多々あろうかと存じますが、これもベトナムを愛するゆえの諫言とお許し下さい。
誤字・脱字はご愛敬ってことでお願いします<(_ _)>
尚、記事の転送は営利目的以外なら原則自由ですが、自己責任において行い、その中で被った被害・損害に対し筆者は責任を負えませんのでご了解下さい。
ベトナム・ニュース その109 今週のヘッドライン
* 4月02日(月) 景気の伸びと公共事業の遅れ
* 4月03日(火) 株価上昇に連動する地価上昇
* 4月04日(水) 最近のベトナム人材確保術
* 4月05日(木) たった独りの教育改革
* 4月06日 (金) 現代越南親子関係一考
* 4月07日 (土) ベトナムのゲイツ基金
4月02日(月) 景気の伸びと公共事業の遅れ
* ベトナム第一四半期の国民総生産は7年続騰の7.7%と試算されると、先週、開かれた投資計画省の会合で発表がなされた。
これまでの最高は7.3%で2005年の同時期に記録されている。今回の結果は主要産業の成長が貢献しており、第二次産業の建設部門がトップで9.3%を稼ぎ出し、第三次産業のサービス部門が7.8%とそれに続き、第一次産業の農林水産部門が2.3%の伸びを記録したという。第一四半期の産業製品の金銭的価値は130tドン(US8.1b$)になると予測され、対前年同期比で16.6%増が見込まれている。輸出歳入は、対前年同期比で18%増加のUS10.48b$ 3月単月の輸出歳入目標のUS3.96b$も無事クリアーしている。
3月の消費者価格指数は0.22%落込み、第一四半期全体のそれを3.02%に引き下げる要因をもたらした。しかしながら、会合の席上、担当官らは石炭・セメントなどのコストの上昇が各産業で設定した成長の達成率を損なったと指摘し、いくつかの電力事業計画の遅れなどからベトナムは深刻なエネルギー不足に陥っていると述べた。工業省とベトナム電力公社は全国規模で電力需要を満たす為、引き続き努力しているものの、天候不順などに左右された場合、電力不足は更に拍車をかける事になるだろうという。会合で、各参加者は国債を使用して行われる主要インフラ事業実行に於ける緩慢さを心配する声で溢れていた。投資計画省の報告書に拠ると、建設工事の第一四半期の進捗は1.5tドンで、年間計画率全体の僅か5.6%に過ぎないからだ。
(辛口寸評)
国民総生産を順調に伸ばしてきているベトナムなれど、その一方でインフラ整備の立ち遅れが目立ってきているようだ。先ず、国が発注する事業は当然の事ながら、その殆どが国営の建設会社に回される。余程、大きな仕事は外資のゼネコンが入るため、工期など厳しく守られるのだが、そのような仲介がない中小の仕事に関しては第一次建設会社が仕事を請けると、それを第二次へ、第二次は第三次へと自分たちの利益を乗せて丸投げをしてゆく。国営故に発注側とも強力なコネを持ち、受注運動のみならず、丸投げも当然の如く行われている。
丸投げ先が増えれば増えるほど、請負価格はどんどん削られて行くので、材料費を削る為に指定された材料とは異なる資材を使い、しかも目に見えぬところでの手抜きが始まる。そのため、材料探しに時間が取られるせいか、それが直接工期遅れに繋がり、こうして完成した構造物は、見掛け図面通りでも、中身は陳腐な材料で固められ結果的に完成後、不具合が出て傾いたり陥没したりヒビ割れが走ったりして、その後延々と修復工事が続くことになる。国もこの問題に気づいており是正に向けた取り組みを進めているのだが、何分、これら中小の事業は数も多く監視の目が届きにくいし、それをしようとすれば亦、莫大なコストを費やさねばならず、なかなか思うように進んでいないのが実情のようだ。
4月3日(火) 株価上昇に連動する地価上昇
* ベトナムの不動産市場はこの地域で大規模な外国投資の数々と高収入世帯の増加により最も成長速度の早いマーケットを形成している。が、総てがバラ色というわけではない。CB Richard Ellis社代表のMarc Townsend氏は、ベトナムのWTO加盟と株式市場の急速な成長が不動産ブームの追い風になっていると指摘する。WTO加盟の既成事実が多くの外国企業の投資の呼び水となり、中級から高級なオフィス需要とビジネスマンらのホテル宿泊需要を喚起しているという。CB Richard Ellis社は、今後、WTO時代の下、自由な経済活動の環境の中でショッピングセンターでの小売スペースの需要の高まりを既に予測しているとのことだ。
結果的に、国内外の土地デベロッパーたちは数億ドルの資金を不動産市場に注入し、市内及び郊外に5つ星ホテルやショッピングセンター・オフィスビル建設に勤しんでいるのだ。新しい建設プロジェクトが完成するまでに数年費やさねばならなず、その為に短期的な建設スペース不足に陥っているという。ホーチミン市不動産協会に拠れば、ハノイやホーチミン市の高級レンタルオフィス物件は既に1平米辺りUS35~38$の賃料で埋まっているとのことだ。株式市場のブームが不動産ブームに一役買っている。株式売買で挙げた収益は、安定した不動産投資に回されて下り、特に高級アパートやビラへの購入に繋がっているのですと前出のTownsend氏。
加えて昨今では、ファンドマネージャーたちも不動産マーケットに流れ込んで来ている。Vina Capital社は今年始め5割の利権を取得しヒルトン・ハノイの7割を支配下に置き、その一方でソフィテル・メトロポール・ハノイの支配権も7割押さえている。現在、同社は二つの不動産ファンドを運営しており、そこからの上がりは25~30%が期待されているとのことだ。今後も、2008年度に入ってもこの動きは伸び続けると見ていますと語るのは、Dragon Capital社証券投資ファンド部Tran Thanh Tan部長。
不動産開発の今後に関しては、法令・規約などの不透明性が脚枷となるだろう。今年初旬発行されたJones Lang LaSalleの報告書では、ベトナムの透明性指標では最低の評価を受け、しかも近隣のタイや中国に情報開示や複雑な行政手続きの点で水を空けられている。アナリスト曰く、これには多くの不動産・建設関連の法律の存在に加え、多くの省庁とその職員が縦横無人に関る為に、不動産を扱う理解力と経験に欠けるのだと指摘する。例えば、ある企業が許認可を得るために天然資源環境省・建設省・農業僻地開発省・水産省を水平横断的に訪れなくてはならなかったりするわけだ。企業はそれぞれ政府に強く働きかけ不動産投資をし易くなるような枠組みを早期に築かせなければならない。
Jones Lang LaSalleの報告書は、地価の策定に関し、役人の管理能力の低さが悪影響を与えていると指摘する。アジア・MipimグループのセールスマネージャーHulien Sausset氏は、最近の彼のベトナム訪問で得た感想として、この国の透明性は外国人投資家の期待を満たすものには未だなっていないという。最新のアンケート結果から云えば、ベトナムの不動産市場は魅力的ではあるものの、透明性に欠けるために非常に複雑怪奇な様相を呈していると氏は続ける。許認可取得の難しさ、行政手続き手順、土地使用権取得と資本撤収手続き等が、その代表的な改善要項だとする。
最近、ホーチミン不動産協会の主催でーチミン市で開催されたセミナーの席上、参加者の多くが行政手続きの不備が市場発展を阻害している最大の元凶として非難した。ホーチミン不動産協会のLe Hoang Chau副会長は、政府の融通の利かない枠組みのお陰で管理効率に限界をきたすばかりか、建築許可ひとつとるのに600種類以上の申請書式が必要になるのですと訴えた。
(辛口寸評)
株で儲かったお金が不動産市場に流れている。儲かった連中の顔ぶれは、所謂、優良銘柄(ブルーチップ)株を安く手に入れる事が出来た。その会社の従業員たちや成功しているビジネスマン(自営業者)、それに役人たち。郊外の新興住宅地の地価は昨年9月以来、再び上昇が始まり、現在は半年前の3割ほどの高値で取引されている。これは土地だけに限られた傾向でなく、アパートやマンション物件なども含まれ、これらを所有するオーナーたちは今年の旧正月が明けには、示し合わせたかのように20~30%の家賃値上げの通告をテナントに浴びせているという。筆者はWTO加盟効果以上に、過熱気味のベトナム株式市場の存在が、現在の地価の上昇を生み出している一番の理由と考えている。これから株式市場が伸びる毎に不動産市場も連動し、値を釣り上げて行く事になるのだろうが、調整期間中の株式市場で若干、地価も調整に進めば好かろうが、先ずなかろう。
4月4日(水) 最近のベトナム人材確保術
* 卒業を四ヵ月後に控えたグエン・ミン・コイくんは、既にベトナム最大手IT企業HIPTグループへの就職が決まっている。ハノイ工科大学5年生のコイくんは、彼が求人の応募をかけていないHIPT社から就職の誘いの電話が来た時、大変驚いたという。しかし、彼のキャリアを早く開始出来たのは幸運ではなく、彼がヘッドハンターのターゲットのひとりとしてリストアップされていたからに他ならない。ヘッドハンティングの他に、企業の人事関係者たちは従業員に優秀な人材を紹介するよう呼び掛けることも最近は多くなっている。
「私たちは従業員の役職に拘らず、誰でも優秀な人材を会社に紹介してくれるのなら、紹介により入社した社員の一ヶ月分の給与と同額を紹介者に特別ボーナスとして進呈します。」と云うのはFPTソフトウェア社人事課長グエン・クオック・グエン氏。グエン課長に因ると、彼の会社のスタッフは新たに熟練エンジニアを紹介する事に拠って100米ドル程の紹介料を得ますが、これがマネジャーや上級専門職員クラスになれば数千ドルの紹介料も夢ではないという。新人ワーカーで、紹介料は凡そ32米ドル。この様な採用形態は意外に思われる向きも多いものだが、これら企業にしてみれば求人広告を新聞などに掲載するより余程、効果的だと断言する。
企業が要求する能力を持つ人材を新聞やウェブの求人サイトから得るのは稀で、普通、一般的にそれらを見てやって来た多くの応募者は要求に遥かに満たない人々ばかりなのです。確かに紹介料制度はコストが掛かります。が、その一方で信頼の置ける情報ソースから的確な人材を集めることが可能となるのです。紹介料は、紹介者である従業員の余禄となるばかりか、企業にとっても紹介に拠って入社して来た新人社員にとってもメリットがあるのです。」と、ある企業の人事担当者の弁。
「このシステムならば、就職活動の時間も省くことができるばかりか、求人斡旋業者への手数料も払わなくて済みます。紹介料を受け取ったら、友人と僕を企業に紹介してくれた人と3人でパーティーをする積りです。」とコイくん。「このシステムを会社に導入し二年近くになりますが、とても効果的で助かっています。現在、全従業員の半数が、このインセンティブ・プログラムでの入社です。ですから、弊社にとって求人活動の第一優先事項は従業員からの推薦を得る事なのです。
このシステムが効果を発する最も大きな理由が、変な人材を紹介することに拠って、その従業員の社内評価が下がります。それを望む者はどこにも居ないということでしょう。」とグエン課長。
とはいうものの、新人は就職しても直ぐ辞めることもあり、その面ではこのシステムが常に有効だとは言えない。以前、情報技術フランス研究所に勤務していたレ・トウ・ホアさんは研究所に何人か友人を紹介したことがあるという。しかし、彼らは暫く働いて研究所が思うほど機会と専門的な知識を得られないと知ると、会社を去って行った。この件でホアさんは少し、罪の意識に苛まされたものの、企業から至急された紹介料を返金せずに済んだのはラッキーだったと彼女。
IT・通信・会計・貿易関連業界は多くの求人を必要としているにも関らず、大勢の卒業生は雇用主が必要とするスキルを持たない為に職につけないでいる。結果的に、多くの企業はヘッドハンターを雇い熟練技術者などを他社から引き抜き競争に打ち勝つ必要に迫られるというわけなのだ。民間IT企業CNC社のグエン・ミン・タオ社長は、既存従業員から、或いはヘッドハンター紹介を受けた、若くて才能豊富な人材を歓迎し、その為にはどんなコスト負担も気にならないと断言する。今日、才能豊な人材発掘は非常に困難になっており、ヘッドハンターや従業員からの紹介により、雇用を募るのは如何に高コスト化に繋がろうとも、必要不可欠な方法なのだとタオ社長は結んだ。
(辛口寸評)
ベトナムでも優秀な人材は、待遇の良い外資系企業に流れてしまう。そればかりか資金力の豊富な外資企業は昨今、大学そのものと提携をし、大学に資金負担を申出る見返りとして、優秀な学生に入社して貰うなんて事も当たり前になって来ている。青田買いどころか苗買いといったところで、これに対抗しうるベトナムローカル企業は、今のところ存在しない。(唯一、FPT社が自前の大学FPT大学を本年度よりスタートさせたので、4年後からは対抗勢力に成りえるかも、、、無理かな、、)
結局、ベトナム民間ローカル企業に残された道は、ヘッドハンティングと日本的に言えば縁故採用しか有効な手だてがないのである。
ところで筆者の会社でも、年がら年中、求人を募集している。(中小零細企業は出入りがはげしいもので、、、)特に営業職は回転が早いので、約三ヶ月に一度は新聞広告を出しているほどだ。募集の方法は新聞の他、最近は、ネットの求人サイトに掲載し、この二つのソースから人を集めるのだが、面接に来る人々の多くは、ベトナム人らしくあれこれ採用条件を掲載したにも拘らず、そんなもの無視して“駄目もと”で堂々と面接にやって来る。面接に来る者の内8割までが条件不適合者なので、ここ数年は面接前に事務所で書類選考をし、残った人だけを対象に面接を行うようにしている。
参考までに、これまでで面接した中で驚いた応募者ベストスリーは次の通り。運転免許の無いドライバー志願、セールス経験の無いセールスマネージャー志願・ドアで人だかりがしていたので、何事かと取り敢えず並んだ人。確かに条件違いがやって来るなんてどうかしていると思う反面、日本の場合、条件を守り過ぎ、ついつい遠慮して応募もしないものだが、自己中心的な面での機会損失の点で考えると、ここはある程度、駄目もと根性のベトナム人を見習っても好いのではなかろうか。
4月5日(木) たった独りの教育改革
* 泣きじゃくりながらハイフォン市の教師ダオ・ティ・タンさんはか細く低い声で彼女は漸く話しを聞かせてくれた。彼女は、公式に不正を非難し、教育システムの矛盾点を指摘する増え続ける教師のひとりだったが、ここへ来て漸く彼女の泣き声に耳を貸す人々が現れ始めた。約一年間に渡り、ド・ヴィエト・コア教諭の所有するハアタイ区の小さな家はタンさんのような教育者にとって教師仲間が集まり語らい、日々の教育に於ける問題点を改善する有志の道場となった。問題の中で常に採り上げられたものは、試験の不正、特に教師の収賄やカンニングの証拠隠滅補助などで、余りにも酷い状況に教育訓練省は最近、試験の出題方法を変更せざるを得なかったほどだ。
ヴァンタオ中学校で数学と地理を教えるコア教諭は、教育訓練省に対して、卒業試験で教師が関与する不正を告発したひとりで、彼の訴えは不正撲滅キャンペーンとして広がって行った。「長い間」、ベトナムの学生は試験でカンニングをしても、大目に見られて来ました。教師も、ほんの僅かなお金のやりとりで試験の点数を自由自在に増やす有様だったのです。そしてこの様な不正は社会の為にも是正すべきで健康的な教育環境をベトナムに取り戻すことが必要なのです。亦、この問題に立向かうには社会を挙げて人々が手を繋ぎ協力して行かねばおぼつかないのです。」とコア教諭。毎日、コア教諭は、翌日の授業の準備やメールの返信、彼が主催するウェブサイトの更新を夜遅くまで行いながら、それらを通じ同僚の教師や学生たちに教育情報の交換をするのだ。
コア教諭が不正に立ち上がったきっかけは、昨年7月にPhu Xuyen A中学校の期末試験の監督官を引き受けたことに端を発している。試験場では、カンニングのし放題で、教師も見て見ぬ振りを決め込み、強い憤りを感じたのだった。そして彼は、教育訓練省にこの事実を報告したのである。初めの内、学校長が保身の為かコア教諭の報告を握り潰そうとしたばかりか、地区の教育委員会ですら臭いものに蓋とばかりに彼の報告書の受理を拒否したという。故にコア教諭は直接、教育訓練省に訴えることにしたと当時を思い出しながら語ってくれた。この報告が中央に上がると、国中がッショックを受け、多くの教員たちがこの国の教育現場での不正に不満と憤りを感じていることが判ってきたのだという。
やがて、問題の是正に国も立ち上がり、調査に乗り出した。そして試験の結果を再度見直しする事が図られるようになった。「試験に失敗した事を先生のせいにしないで欲しい。落第しても努力をして自分自身で立ち上ることだ。長い人生の内では僅かな期間でしかない。何よりも大切なのは努力して得た結果は何物にも換えがたい人生の糧となるのです。」とコア教諭は生徒を諭す。コア教諭とその家族の生活はその後、大きく変化したという。「沢山の励ましの電話やお手紙を頂きました。しかし、その一方で家族の身に危険が及ぶような脅しの便りなどもありました。多くの同僚や近所の人々は私のことをドンキホーテと陰で呼んでいるようです。しかし、最終的に人々は私の行動を肯定してくれると信じています。」とコア教諭。
コア教諭の不正解明の動きは、地元の人民委員会や警察のみならず、教育訓練省も巻き込み学校側のスキャンダルにメスを入れたのだった。その結果、二ヵ月後、Phu Xuyen A中学校校長は懲戒免職、試験で不正を働いた23名の学生は追試を受けることになった。教育訓練省は、コア教諭の不正を許さぬ強い態度と忍耐で教育改革の先駆者的役割を担ったとして、褒章を贈った。加えて、ベトナムテレビはコア教諭を2006年度最優秀模範国民にノミネートした。コア教諭の教え子は今回の恩師の受賞を知り、我が事のように喜んでいますと語り、そして彼が学生の頃、いつも厳しく融通の効かないコア先生を好きになれなかったのですと続けた。しかし、社会人になったいま彼はコア教諭からかけがえのない、“勇気と正直”を学びとても感謝しているという。
コア教諭の孤独な闘いの中で忘れてならないのは、ご家族の支えであった。妻のグエン・ティ・ガさんは、苦労も喜びも共に分かち合って来た。今も彼女はタン先生(泣いて駈け込んできた)のようなゲストを迎え入れては、話しを聞き、時に一緒に涙を流し慰めあるのだという。脅迫電話や手紙が初めて我が家に舞い込んだ時、正直なところとても不安でした。夫婦二人とも体重が減り、心配で髪の毛に白髪が生えて来たほどです。」とガさん。そして、長女は家族から暫く離して生活させ、長男には始終注意を払って暮らしたのだと語ってくれた。余りにも危険が多く、ガさんの両親は主人のコア教諭に不正追求キャンペーンを中止するよう諭したほどだが、それでもコア教諭は自身の信念に従い追求の手を緩めなかったという。
「キャンペーンを始めた頃、多くの人々は主人の行動を罵りました。時に私が外出しても、皆、私を睨み付け彼らの子供達の成績が落ちる理由を主人の行動になすりつけたものです。しかし、真実が解るようになるに従って、多くの人々が我々を激励するようになってくれました。」とガさん。コア教諭は、今年5月の下院議員選挙に立候補を決めた。
彼がベトナム教育界の変革に貢献してくれるだろうと信じ、多くの人々が彼の支持者に回ってくれているという。
(辛口寸評)
ベトナム教育界の不正は実に根が深い。以前から試験の点数を“買う”事はあったものの、ドイモイが導入される前までは、教師が出来ぬ学生の救済措置として甘い採点を焼いもや野菜・米等と交換することはあったが、ものがない時代である。貰う方も渡す側も罪の意識はなく、なんともほんわかした雰囲気の中で済まされてきたのだった。ところが、ドイモイが導入されるとそんな光景はガラッと変わってしまったのである。国が国営企業の経営陣で大学を出ていない者に対し、大学に通い試験を受けて卒業資格を取得せよと通達を出したことが不正の引き金となった。何分、当時の国営企業の経営陣の殆どは、職務遂行能力などに関係なく、ベトナム戦争時代の論功行賞に拠ってその席に収まった人たちが殆どだった。考えてみれば、普通、勉学に勤しむ青春時代に彼らはジャングルの中で銃を持ちアメリカと闘っていたわけだから、今更大学へ行って勉強しろなんて話しは酷なものでしかない。
それでも経済改革を推し進めているベトナム政府にとって、国営企業のトップを含む経営陣が低学歴のままというのは何とも都合が悪く、結局、強引に期間を設け卒業資格を有無も云わせず取らせる事と相成った次第だ。押付けられたロートルの経営陣、さては困ったと、打ち出した手だてがなんと、優秀な従業員を選びだし、替玉履修はおろか替玉受験の勃発!そんなのも面倒だ!と言う人々は折からコネを豊富に持つ地位を利用して、履修も卒業証書も買ってしまえとばかり、大学のセンセを買収し、これが彼らのスタンダードになったわけだ。大人たちのこの行いが学生に波及するまでに掛かった時間は僅かなもので、ベトナムのドイモイが成功し、経済成長の高まりと共に、飛び交うお金の額も比例して上昇して行ったのである。勿論、これだけが理由の総てと云う積もりはない。ただ、大きな転換点のひとつにはなったと筆者は診ている。
4月6日(金) 現代越南親子関係一考
* 韓国のスーパースター、ビーレインを一目見ようと、グエン・キム・タンさんは十代の子らと一緒に絶叫し踊り狂っていた。彼女はホーチミン市第7陸軍スタジアムでタンクトップに身を包み、臍だしルックのジーンズにハイヒーツを履きながら悲鳴を上げながらまるで娘時代に戻ったかのように体を音楽に合わせて揺らしていた。タンさんは、新世代のママでファッション感覚はやや劣るものの、子供たちが興味を引く子とに関して常に主導的な役割を担うのだ。「今回のコンサートが行われる前まで、私はビーレインが誰だか知りませんでした。私の知っている歌手と云えば、タン・ラム、マイ・リン、マイ・タム。それにラム・チュンくらいのものでしたが、何故 娘たちがビーに憧れるのか解るようになりました。」と彼女。
何故、タンさんが娘の興味を追いかけ調べようとするのかと言えば、10代の子供たちはアイドルに影響され易いと信じているからだという。「私は娘のアイドルを知ることにより、彼女の今の価値観と優先課題の結びつけが可能になるのです。加えて、歌手にしろ有名なスポーツマンなどは若者にとって人気アイドルになる傾向があり、ポップコンサートに出掛けることによって、新世代のママたちは公務員・会社員・主婦の区別なくサッカーの試合を見たり、或いはインターネットについての知識を吸収して行くのだそうだ。
今年45歳になる叔母の息子はハノイChu Van An中学のサッカー部に在籍している。この為、母親は子供のサッカー試合のスケジュールに合わせて仕事の段取りを組んでいる。加えて、彼女は息子が憧れている世界的なサッカー選手の情報を集めて密かに応援しているのだ。
「前はサッカー選手と云えば、ロナウジーニョとジダンすら知りませんでしたが、今では息子と選手の話しをしても引けをとりません。」と叔母は自信を見せていう。ハノイで住宅建築業を営む女性は、2006年ワールドカップ、イタリア対フランス戦で起きたジダンとマテラッツィの事件に関し、ジダンの行いに関し、彼女なりの意見を息子に話したという。「息子のアイドルであるジダンがあの事件が起き世界的な非難を受けた日、夕食にも手を付けず、一日中、部屋に閉じこもってしまいました。息子との対話の中で、彼のアイドルに対する熱烈な見方だけでなく社会的に公正に判断する事が大切なのだと諭したのです。」と彼女。
次から次へと急速に変化する子供の興味の対象が勉強意欲を低下させるのではと多くの親は懸念するが、新世代ママはこれらの興味を示すことに拠ってその心配を取り除くのである。急速な変化を見せる現在の社会情勢の中で、ベトナム人社会は、スポーツも音楽もファッションすらも知らないような人間を生み出すべきでなく、子供たちが持つ興味を後押しすべきなのだ。母親たち自身がインターネット・娯楽・音楽・科学など多方面で理解力を深めて行く必要がある。多くの母親は彼女らの子供たちの趣味や好きな事に対する最優先事項は、彼らの活動に注意を向けしっかりと観察することなのだ。しかし、厳しく重箱の隅をつつくような管理を子供にするべきでなく、寧ろ友だちのように接することが肝要なのだ。母親たちは子供たちが妊娠中絶・麻薬中毒。或いは、売春やレイプを生み出す土壌となる出会い系サイトなどの危険なトレンドに足を踏み入れぬようにして行くようにしなければならないのである。
人口・家族・子供国家委員会の専門家ダン・ナム氏に拠ると、若者は常に両親から優しく友だちのような語り口のアドバイスを求めているのだという。委員会に拠って設置されたティーンの為のホットラインには子供たちからなぜ両親が子供たちのアイドルファンクラブへの入会を禁止するのかといった質問が多く寄せられる。親が若者を教育指導する最も効果的な方法は親自らが子供たちの友人になることであるとナム氏は結んだ。
(辛口寸評)
友だちみたいな親子関係が、当節求められているらしい。古いタイプの父親、母親像は少しずつ朽ちているようで、所謂、子供から見て“話せる親”であることが素晴らしいみたいだが、筆者はこの考え方に真っ向から否定したい。何故なら親は親であって断じて友だちではなく、人生の先輩であり人生の師であり、子が成育して行くに必要な保護者なのだ。親には子供を真っ当な大人にするための責任を有している。指導の為に必要に迫られれば、叱ることもあろう。
落込んでいたならば優しく慰めることもあろう。が、しかしあくまでも親としてであり、決して友のスタンスであってはならない。散歩離れて師の影踏まずとまでは行かないまでも、常に緊張感を湛えた関係を親と子の間で共有すれば、家族だけでなく国家の繁栄にも繋がるだろう。
4月7日(土) ベトナムのゲイツ基金
* ベトナムは潜在的で致命的な病気から市民を守るため免疫を施す印象的な仕事を成し遂げていますと4月2日ハノイに立ち寄ったマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は語った。彼とその妻メリンダ・フレンチ・ゲイツさんは、世界で最も大きな民間援助基金のビル・メリンダ・ゲイツ基金の代表者としてハノイに足を運んだのだった。「ベトナムのやり方にとても感動しています。」とハノイ郊外にあるドンアン病院を見学したゲイツ氏は、子供たちが看護婦から予防接種を受けている様子を見てリポーターに語った。
ゲイツ夫妻がハノイヘ来た目的はベトナムの予防接種方法を学び、基金の新規事業計画を策定するためとゲイツ氏は説明し、これまでの既存事業で一歳未満の幼児の9割に接種を施して来たという。また基金では世界規模でUS1.5b$を投入し予防接種事業に邁進して行き、数十件のチャリティー事業をベトナムで行う為に、ソフトウェアの巨人はUS29.1bを寄贈する予定とのこと。尤も今回の旅行中に新たな慈善事業の発表はなされなかったが、既に幾らかの資金を子宮頸癌ワクチンリサーチ費用に投入しているとゲイツ氏は述べた。
3日、ゲイツ氏はグエン・タン・ズン首相と会見する予定になっている。
グエン・タン・ズン首相は、ビル&メリンダ・ゲイツ基金を含む国際活動組織に対し、ワクチンの支援をベトナムにするよう提案し、ベトナムが国家を挙げ免疫健康事業活動を促進して行くことを確約した。マイクロソフト社会長で慈善家のビル・ゲイツ氏とその妻メリンダさんは4月3日ハノイで、首相と会見し、首相はベトナム経済発展の加速化の元となる政策の順次策定を保障しつつ、その一方で国民の生活条件の向上、特に免疫健康面で充実させて行くと語った。しかし、他方、ベトナムは未だ経済的困難が立ちはだかっており、輸入ワクチンは常に不足気味にあると述べた。
また、首相はマイクロソフトとそのベトナム側パートナーのFPT社との関係がうまく運んでいることを褒め称えた。ビル&メリンダ・ゲイツ基金を共同で主催するゲイツ夫妻は、ベトナムの免疫健康プログラムに焦点を当て、子供への予防接種及びその他の感染症用ワクチン接種に力を注いでいるのは素晴しく、今後ともベトナムへのこの方面の支援を厚くして行きたいと語り、ベトナム政府に対し、より一層の支援を賜りたいと結んだ。今回のツアーはマイクロソフト会長にとって二度目の訪越となり、昨年の訪問ではまるでロックスターのような歓迎を受け、ベトナムはソフトウェアの巨人がベトナム市場に参入するよう促したのだった。
(辛口寸評)
マイクロソフトのビル・ゲイツ 彼の狙いはずばりベトナムを第二のインドとしてソフトウェアの技術者供給畑とすることにある。ご存知のとおり、インドには既にインテルが進出し、マイクロソフトも地元ソフトウェア技術者訓練センターを運営するインフォマテック社(IM)やインド工科大学(IIT)と一体になって世界戦略を推し進めているのだが、ここベトナムでは、IM社やIIT同様の位置に納まるべくマイクロソフトの強力なパートナーとしてFPT社がある。FPT社はソフトウェア製作事業の他、最近では技術者を独自に養成する為に、私立FPT大学も立ち上げ、昨年9月から学生たちが通うようになっている。
元々、ゲイツ氏にとって、中国は違法コピーの摘発など遅々と進まず業を煮やしていた為に、同国での投資はこれっぽっちも考えておらず、それが証拠に過去、中国の国家主席、胡錦涛と初めて会見した時、彼は片手をポケットに手を突っ込んだまま握手を交わしたほどで、この一件ひとつを取ってみても今後、中国がマイクロソフトの投資先になることは考えられず、寧ろ、それを知り抜いている中国は自国の国家戦略の中で、マイクロソフトの世界戦略に対峙する独自勢力を築いて行こうとしているのだ。それともうひとつ、アメリカ自体、中国を警戒しており、これ以上、ハイテク分野の漏洩が中国でなされるのを喜ばぬ思惑が、マイクロソフトなどを含めた一連のIT関連企業らと合致していることも忘れてはなるまい。
* 次週、第110号の配信は都合により4月16日(月)となります。 以上