巨大地震を想定した実物大破壊実験を簡易レポートする!
実物大三次元振動破壊実験施設を使用した、震災の実物実験が行われました。
この設備は、阪神大震災の経験に伴い、国が、兵庫県三木市に設置開設した施設に含まれています。
茨城県つくば市の施設は、小規模実験施設で論理的な考証を行う目的が強いようですが、兵庫県三木市に設置された施設は、実物大の建物を施設内に構築し、それに試震を与え様々なデータを得ることができます。
←実験設備の模型を写真で撮影。これを見ると、四方と下部に強力な油圧振動装置が組み込まれ、データに基づき、その支える基盤に対し三次元の波動を与え揺らす構造のようです。
これまで2006年度の実験が繰り返されていましたが、先日(4/03)、最終実験(最大規模試震)が実施されました。関係各位(兵庫県建築士会)のご好意により、最終実験を見学させて頂くことができました。
←実物大の建物を人工震動基盤の上に構築した写真。実物大の建物は、阪神大震災以降に変更された建築基準法により設計施行された建物です。構造的には、いわゆる鉄骨ラーメン構造で、壁面は左側がALCパネル、右側がカーテンウォール(ガラス材)と呼ばれるものだそうです。
今回の論証は30階建てビル(高層)として設定。基盤の上が29階、写真の二階部分が30階(想定)に相当します。
午後1時、午後3時、午後6時(2回)の合計4試震を見学しました。
いずれの試震も、阪神大震災で計測した(計測数値として残されている)データ(加速重量=ガル計数=G)を軸に再現する実証実験でした。
阪神大震災の被災過重データが全ての素で、被災地の(鷹取・神戸海洋気象台・新神戸・西明石)で記録された加速重量(ガル=G)数値に基づき、①データ数値そのまま、②データ数値の3%アップ(103%)、③データ数値の5%アップ(105%)などの加工データで試震をかけていました。
長期周波の巨大地震は、最初ほんの数秒、少しだけ揺れます。その後(瞬時)に巨大な揺れが襲いかかります。アッという間の出来事です。
平均して片側へ90Cm~1m揺れるそうで、往復では180Cm~2mの揺れが1分くらい連続します。
見学地点から見守るわけですが、20mほど前で激しく揺れ続け振り回される建物の中は、アップライトピアノが倒れる。非固定の家具は吹き飛ぶ、マネキン(人の体重を考慮し過重固定)は倒れる。その上に家具が襲いかかる状況でした。
←事務所として想定した右側の部屋は、事務機器(コピー機やプリンター機)などが吹き飛ぶ有様です。事務器機の固定化を真剣に考えなければ、就業中、巨大地震に襲われると、機器使用者は身を交わすことがほぼできません。直撃を受け、圧死することも充分に考えられます。一命を取り留めても、重体、重症は避けられないことを予想しておく必要があります。
←午後3時の実験終了後に実験建物(30階)の内部写真です。阪神大震災の被災者としては12年前と同じ光景を見る思い、まるでデジャブ現象(擬視感)そのものでした。
数枚連続させておきます。巨大ブラウン管テレビは、ゲル剤で固定したため倒れませんでした。
冷蔵庫もゲル剤固定により倒れませんでしたが、扉や引き出しは全て開いてしまいました。←アップライトピアノは倒れています。
生活家電を含めた安全確保できる方向への研究が今後の課題です。
←軽量鉄骨で軸組し石膏ボード(プラスターボード)に壁紙を貼り付けた仕切り壁が、崩れませんが複数の亀裂が入ります。
←試振計測する装置(現場設置のモノは極めてシンプルです発信機能がついています)。
←ガラスは、二重合わせガラスを採用していました。「ひび割れ」は転倒した家具の角による損傷ですが、飛散はありませんでした。少しは安全か?ガラスが上空から飛散すると、地上にいる人たちはひとたまりもありません。その意味で、実験に供与されたガラスの安全が保たれたことは、一服の清涼剤かも知れません。
新建築基準に準拠した建物は、基本的に保ち残ります。しかし、室内は保つことができません。今後は内装が課題のようです。また、高層階から地上へ、どのように避難誘導するかは大きな課題です。これはNYCで起きた同時テロの際にも語られたことです。
写真は撮れませんでしたが、家具の転倒防止支え棒(天井と家具を繋ぐ)を設置するとどうなるか、それは家具が倒れない場合と倒れる場合があるようです。揺れが来る方向(角度)と最初の加速重量によるように思います。
何はともあれ、この実証実験をされました、防災研、兵庫県、兵庫県建築士会の皆様に対し、深く敬意を表したく存じます。本当に勉強させて頂きました。加えて見学に際し、大変お世話になりました。兵庫県建築士会のご担当者へ、改めて御礼申し上げます。
4/03の実験ではありませんが、↓は、年度末の3/29に公開された実証実験を報じた記事から引用紹介致します。
引用開始→ 長周期地震動:三木の施設で影響実験 30階建てビル、揺れ幅194センチ /兵庫
(毎日MSN)
◇最大揺れ幅194センチ東南海・南海地震で発生する可能性が高い長周期地震動が30階建ての超高層ビル(高さ100メートル)に与える影響を調べる実験が29日、防災科学技術研究所の震動破壊施設「E-ディフェンス」(三木市)であった。
同研究所と県の共同研究。30、29階に見立てた建物(試験体)を震動台に載せ、250秒間にわたって揺れを起こした。最大揺れ幅は194センチで、室内のタンスや食器棚は移動したり、転倒したが、転倒防止を施した家具は倒れなかった。
研究チームの藤谷秀雄・神戸大工学部助教授は「家具の転倒防止が望ましい」と話した。県は今回の実験データを学校教材などにして、耐震化、減災化を啓発する。30日は短周期地震動で実験をし、長周期地震動との違いを検証する。【南良靖雄】
毎日新聞 〔神戸版〕2007年3月30日
Copyright 2005-2007 THE MAINICHI NEWSPAPERS. All rights reserved. ←引用終わり
実験棟へ入る前、外部に展示された実証実験済み建物を概観しました。
←補強のない建物は地表面との接点が、全て破壊されています。
また、1階部分の腰壁(鉄筋コンクリート)が、揺れに対し別の作用を起こすため、コンクリート柱を損傷させていることが分かります。耐震壁は壁面全部をカバー(写真右側の壁)しないと無理なように見受けました。
←補強された建物は、地表面との接点破壊への耐久力があるようです。
1階部分の破壊が少なければ、建物の挫屈は軽減されるように見受けました。日本で地震を避けることはできません。巨大地震は、いずれの点でも、建物をほぼ破壊します。建物が破壊されても、人命をどのように救うかは、建物の安全性に直接関わる問題です。
この度の実験は、近い将来、建築基準の強化改正の素になるデータとして整理公開されるようです。
地震国日本の「安全と安心」の確保に向け、研究者の地道な努力を支えることが必要ではないでしょうか。
| 固定リンク
コメント