モスバーガーの新業態から学ぶ一つの視点 基本的なビジネス戦略の整理し強い基盤を形成するための参考事例の一つとして
モスバーガーについての記事(記憶のための記録):
サービス業の付加価値生産と提供について、思考を整理する上での参考に、
真に興味深く大きな示唆を含む記事と考えシェアしておきます。
引用開始→ モスバーガー新業態、野菜よりチーズ 成功体験壊す勇気
(日経ビジネス 2023年9月11日 2:00)新鮮な生野菜に、二等地への出店――。
モスバーガーが国内2位の約1300店まで広がった成功の方程式だ。しかし、創業から50年を機に出店した新業態は、野菜ではなくチーズ、二等地ではなく一等地を選んだ。あえてセオリーを度外視した背景には、新型コロナウイルス禍で後戻りできなくなった外食産業が生き残るための挑戦がある。
東京都港区にあるチーズバーガー専門店「mosh Grab'nGo」(モッシュグラブアンドゴー)。「モスバーガー」を展開するモスフードサービスが2022年11月末に開業した新業態の1号店だ。バンズ(パン)からはみ出すチーズの存在感は、新鮮な野菜が売りのモスバーガーとは一線を画す。モスフードサービスの川辺壽也ストア事業本部副本部長は、「野菜を使わない商品を考えた結果、チーズバーガーに行き着いた」と語る。
モスバーガーのフランチャイズ加盟店の原価率は他のハンバーガーチェーンより高いとされる。
その要因の1つが売りである野菜だ。野菜は「八百屋さんで売られているような、丸のままの状態で店舗に届く」(川辺氏)。
例えばレタスなら、4度の冷水で1枚ずつ丁寧に洗い、手でちぎっている。こうした仕込みを1日に3回程度行っているため、従業員は朝から出勤している。食材や人件費にコストを割くためには、家賃が安い「二等地」に出店する必要がある。この二等地戦略は、創業以来の方針となっている。1971年、日本マクドナルドが東京・銀座の三越に1号店を開いた。
好立地を押さえ、店舗数を面的に増やす。スケールメリットを生かした低価格を武器にシェアを伸ばすというファストフードチェーンらしい戦略で、圧倒的な1位となった。一方のモスバーガーは翌72年、東京都板橋区の成増で、八百屋の倉庫を借りて1号店を出した。創業者の櫻田慧(さとし)氏が証券会社社員として米国に駐在している頃、トミーズというハンバーガー店と出合った。
決して一等地とは言えない場所にあったが、材料と味の良さ、来店客の目を奪う調理の腕を売りに繁盛していた。
櫻田氏は、「本当においしいものを提供すれば、一等地でなくともお客さまは来てくれる」と考えた。原宿や渋谷にある店舗はあくまでブランドの広告塔のような存在で、本部の直営店だ。しかし、新業態はこの二等地戦略をあえて破り、東京メトロ広尾駅から2分という一等地を選んだ。
川辺氏の狙いは、「モスバーガーではできないことを新業態でやる」ことだ。先駆者の失敗
モスフードサービスは2022〜24年度の中期経営計画で、年50店舗を増やす方針を掲げた。不採算店の整理を終え、収益拡大に打って出る。しかし、コロナ禍前から課題となっていた人件費の上昇は深刻度を増し、原材料費の高騰は止まる気配がない。
食材とそこにかける手間が強みの源泉であるモスバーガーにとって大きな逆風といえる。その対策として、テークアウト専門店やキッチンカー、カフェ業態など多様な立地に適応できる店作りを進めているが、「既存のもうかる業態の立地と客層を変えて違うマーケットを攻めるという『アレンジ』のアプローチ」(川辺氏)になる。根本的にコスト構造を変えるには、カット野菜の利用などが考えられるが、「モスバーガーがモスバーガーでなくなってしまう」(川辺氏)。既存ブランドが抱える課題を、大胆な手立てで解決するためには、新たなブランドでなければならないと川辺氏は考えた。
一等地に出店するため、既存ブランドにはない手立てで、その他のコストを抑えた。1つはレジに人が立っていないことだ。
外食向けツールを開発するOkage(東京・中央)と開発した完全キャッシュレスのセルフレジを置き、注文取りや会計業務をなくした。2つ目は店舗面積を狭くした点だ。モスバーガーの店舗は、30〜40坪程度だが、新業態は席数を減らし、1フロア20坪弱に抑えた。3つ目はアイテム数。モスバーガーは、ハンバーガーだけで40〜50アイテムにも上るが、「減らすとお叱りを受けるため、なかなか減らせない」(川辺氏)。
新業態は、ハンバーガーのアイテム数を4〜5に絞り、従業員の教育や店舗運営の簡素化を図った。
コストを抑えた分は、食材にも反映している。「おいしいと思えるハンバーガーを出す」という創業以来の理念を継承し、ポーランドの職人が監修したバンズを採用するなど既存業態以上にこだわった。店舗の運営コストを抑え、立地と原価に投資をすることで、「職人的なグルメバーガーと、価格競争力が高いチェーン店の間」という業界の空白地帯に狙いを定めた。実は、この戦略には先駆者がいる。20年11月、東京・目黒に開業した「ブルースターバーガー」だ。スマートフォンアプリによる注文システムとキャッシュレス決済を活用した「ほぼ非接触」のテークアウト専門店として注目を集めた。注文取りやレジ業務を省き、座席を無くして家賃コストを下げ、浮いた分を材料費に投入して「原価率50%程度」をうたった。「マクドナルドなど大手チェーン店並みの価格で、よりおいしい」という狙いが図に当たり、店舗面積16坪という狭さながら月商は800万円を超えた。
しかし、22年7月、ブルースターバーガーの幕は閉じた。同年1月に出店した東京・渋谷の店舗は現金対応のセルフレジを置き、店内飲食用に約50席の座席も用意した。ハンバーガーはテークアウト向けに手に持ちやすいサイズだったが、SNS(交流サイト)映えするために巨大化していた。ブルースターバーガーは、「国内2000店舗」という野心的な目標を掲げ、フランチャイズに加盟する事業者を広く募りたかった。それには、繁盛ぶりを分かりやすく示す「行列」が必要だった。こうして「小さくて強い」というブランドの特徴を失い、低迷していった。
先駆者の撤退について、川辺氏は「なぜ失敗しちゃったんだろうとすごく考えた。
コンセプトの根幹を変えず、小さな店舗を出していけば、成功したはず。私たちは、ディテールは変えても、根幹は変えないと決めた」と話す。ブルースターバーガーの教訓を生かし、川辺氏は立地の選定に心血を注ぐ。新業態の出足は堅調だ。店長とマニュアルの改善を続け、当初の想定よりオペレーション(店舗運営)を簡素化できた。メニューの少なさが想定より功を奏し、1.5人でも店舗を回せる時間帯が増えた。また、モスバーガーの強みである野菜を生かしたスムージーが、想定より多くの客を引きつけた。スムージーの仕込みは、モスバーガーの既存店の数十分の1以下の時間で済む。「体に優しい」というモスの長所を、「片手で飲むサラダ」として補った。スムージーなどドリンクは利益率がハンバーガーより高いため、想定より早く単月の黒字化を達成した。
ただ、ドリンク需要が高いのは、「誤算」でもある。当初は3割程度と想定していた店内飲食が、コロナ禍の反動で増えたからだ。2店舗目以降は、昼食のテークアウト需要を狙ったオフィス街や、デリバリー専門のゴーストレストランも併設できる場所などを想定している。飲食スペースが少ない、狭い店舗でも稼げる物件選びが、成功の鍵を握る。
川辺氏は「新業態の完成度はまだ3割」と話す。試行錯誤が続くなかで、一時的に売り上げが減少する場面もあるだろう。しかし、他ブランドに対する優位性を維持するために譲ってはならない部分は何かを突き詰めなければ、成功はない。コロナ禍以降の新しい外食店の活路を見いだすためには、根幹を譲らない強い意志が求められる。←引用終わり
(日経ビジネス 鷲尾龍一)
[日経ビジネス電子版 2023年8月23日の記事を再構成]
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