引用開始→ 世界を混乱させるトランプ発言、誇張やウソが多いのに岩盤支持層が離れない理由…英語に込められた意味
(讀賣新聞 2026/04/29 17:00 大内佐紀)
米国が2月末に対イラン攻撃に踏み切って以来、トランプ大統領の発信のぶれが物議を醸し続けている。かねて、発言やSNSへの投稿内容が一貫性を欠き、誇張が多く、ファクトを重んじないことが指摘されているトランプ氏だが、そのために世界経済が混乱している現状に苦言を呈する外国首脳も出てきた。(調査研究本部研究員・大内佐紀)
マクロン仏大統領が異例の苦言
トランプ米大統領の発言が猫の目のように変わることを公然と批判した首脳はマクロン仏大統領だ。

来日して高市首相と両国の国歌を聞くフランスのマクロン大統領(左)(4月1日、東京・元赤坂の迎賓館で)
訪問先の韓国で4月2日、「前の日に言ったことと正反対のことを次の日に言ってはいけない」と異例の苦言を呈したのだ。トランプ氏の発言が一貫性を欠くことに苦り切っていることの表れだろう。
2月28日の対イラン攻撃開始以降、トランプ氏の発信により世界の原油価格は乱高下し、米国だけでなく欧州や日本など世界経済全体に悪影響が及んでいる。トランプ氏がイラン攻撃を激化するとほのめかせば原油価格は上昇し、停戦は近いと示唆すれば下がる。世界では、石油や関連製品が不足し、インフレが悪化しかねないとの懸念が高まる。
当然、世界の関心事は、事態が収束に向かうのか、あるいは米国がさらなる大規模攻撃に踏み切り、不安定な状態が長期化するのかという点に置かれる。トランプ氏はこれまで、「イランがホルムズ海峡の封鎖を解除しなければ、大規模空爆を実施する」「核兵器保有を断念しなければならない」などと、一定の期限までにイランが一定の行動を取らなければ「ひどいことになる」と警告しては、その期限を延期するということを少なくとも5回は繰り返している。
イラン攻撃の目的についても、現在はホルムズ海峡が開かれ、イランの核兵器と長距離ミサイルの開発能力がなくなることに 収斂しゅうれん しているが、一時はイランの体制変換を目指す考えを示唆するなど、明確に見えないことが指摘される。
ファクト軽視が「ニューノーマル」に
ファクトの軽視も日常茶飯事だ。
例えばトランプ氏は4月20日、米メディアとのインタビューでイランとの直接協議の交渉代表を務めるバンス副大統領が「パキスタンに向かっている」と断言した。しかし、実際にはこの発言の時点でバンス氏はワシントンにとどまり、トランプ氏から出発のゴーサインが出るのを待っていた。このことを大統領が知らなかったとみるのは難しいだろう。

4月21日にホワイトハウスで開かれたイベントで発言するトランプ大統領=AP
戦況についても、「米国圧勝」「イラン側は停戦交渉を懇願している」という趣旨のメッセージを発出し続けているが、世界は既に額面通りには受け取っていない。
トランプ氏の1期目から国内外の主要メディアでは事実関係のチェックが必須となっているが、追いつかないのが現状だ。トランプ氏の発言における事実誤認も、「ニューノーマル」と化し、徐々に不問に付される傾向がみられる。
「一つの文明を滅ぼす」
一方、一連の過程で、米軍による大規模攻撃の可能性にまつわるトランプ氏の発言は過激さを増している。
イランがホルムズ海峡を開かなければ、「石器時代に戻ることになる」「火曜日は橋の日、その翌日は発電所の日だ」といった具合だ。
イランは紀元前6世紀から、人類の歴史に重要な軌跡を残すアケメネス朝ペルシャという文明が栄えた地だ。そうでなくとも、一つの文明を滅ぼしたり、橋や発電所といった、それを攻撃すれば一般市民の生活に大きな不自由が生じるような民間のインフラ設備を攻撃したりすることは明白な国際法違反に該当する。
国際法のポイントの一つは軍事目標と民間施設を厳密に区別し、民間施設は標的としてはならないという点にある。軍人と民間人は 峻別しゅんべつ し、民間人を軍事攻撃に巻き込んではいけないことも重要な決まりごとだ。
もちろん、イランの側にも問題は多い。イランは核拡散防止条約(NPT)の加盟国として、本来、核兵器を保有してはならないが、強い開発意欲を持ち、実際に進めていたことは間違いない。ホルムズ海峡の封鎖も、公海の自由な航行を認める国際法の重大な違反だ。国内の民主化運動や反体制活動の弾圧もためらわない。
しかし、「イラン中の橋や発電所を攻撃し、石器時代に戻るくらい、イランを徹底的に破壊する」というのは、看過できないレベルの脅迫といえるだろう。
米国出身ローマ法王と「舌戦」
これに反応したのがローマ教皇レオ14世だ。世界約14億人のカトリック信徒をたばねる教皇は3月29日、「神は戦争を仕掛ける者の祈りを聞かない」と批判。これにトランプ氏は反応し、4月12日に「教皇は核兵器や犯罪に弱腰だ」と言い放った。レオ14世は初の米国出身の教皇だが、「米国人でなければ(教皇に)なれなかっただろう」と自分の世界的な影響力ゆえに教皇に選出されたとの独自の解釈まで披露した。

トランプ米大統領とローマ教皇レオ14世の主な発言
レオ14世はその翌日に「私はトランプ政権を恐れていない。今後も戦争に強く反対する」と述べるなど、2人の対立は続く。
「タコ」るリーダーの影響は…
トランプ氏の「脅し」は交渉戦術で、実際に実行に移されるかは微妙なことも織り込まれつつある。そこで、米国から世界に広がった言葉が「TACO」だ。「Trump Always Chickens Out(トランプは、いつもびびって腰くだけになる)」の頭文字で「タコ」と発音する。
普通の神経ならば、恥ずかしいと感じそうなものだ。しかし、トランプ氏は自らの発信に一貫性の欠如が指摘されてもどこを吹く風だ。むしろ、発信と行動が矛盾し、予測不能なことが自らに有利なディール(取引)につながるという確信を持っている節がある。

トランプ氏がSNSに投稿した画像。批判を呼び、削除された=ロイター
これはトランプ氏の元職である不動産やカジノの経営者ならば良いかもしれない。しかし、米国はまがりなりにも軍事力、経済力ともに世界ナンバー1の超大国だ。その指導者で、西側陣営の盟主の言動が、世界から信ぴょう性を疑われ、さらにいえば軽く見られることは日本や欧州など西側陣営全体にとって好ましくないことだろう。
「狂人」理論の再来とは?
最近では、マッドマン(狂人)理論の再来ということも指摘される。
ベトナム戦争が 膠着こうちゃく 状態に陥った1970年代、時のニクソン米大統領は北ベトナム指導部に対し、自らの補佐官だったヘンリー・キッシンジャー氏を通じ、核兵器使用をほのめかしつつ、停戦を迫った。このことから、「極端な脅しをもって、相手を交渉のテーブルにつかせる」外交上の手法と定義される。
ただ、当時と現在には大きな違いがある。まず、ニクソン大統領の「脅し」はあくまでプライベートな会話の中で間接的に行われ、トランプ氏のように世界に向けて公言したわけではない。さらに、北ベトナムはイランと異なり、世界経済全体を揺るがすようなファクターではなかった。
トランプ英語の特徴
ここで、「トランプ英語」の特徴を改めて見てみよう。
複雑な単語や構文を使わず、よくいえば、平易な言葉使いで、万人にわかるようなメッセージを発信するのは1期目と変わらず健在だ。
トランプ氏が敵視する、民主党のオバマ元大統領は言い回し、使う単語ともに複雑だった。トランプ氏はこの全く逆を行っている。現地時間4月1日夜に行った、国民向けテレビ演説を具体例として見ていくと、「バイデン前政権時代は、死んだも同然のよれよれした国だったのが、私が最もhotな国(hottest country)にした」と語りかけた。
このhotは暑いという意味ではなく、1970年代にかっこいいことをhotやcoolと言っていた、いわば小中学生言葉だ。

ホワイトハウスで「相互関税」の一覧表を示すトランプ米大統領(2025年4月2日撮影)=ロイター
小中学生がよく使う、「だって、みんなが言ってるもん」(Everyone is talking about it)もトランプ演説定番のフレーズだ。テレビ演説では、「かつてないレベルでイランのミサイル計画を痛めつけた。米軍はすごい、今回の軍事作戦は大成功だとみんながそう言っている」と大見えを切った。みんなとは誰か、実際になんと言ったかは検証されない。
形容詞、副詞も誇張というレベルで多用される。
イランでは「とてつもない進捗(tremendous progress)があった」「イランの海軍を、完璧に破壊した(absolutely destroyed)」といった具合だ。「とても(very)」という単語も頻度高く使われる。「戦争はすぐ終わる(very fast)」「終わりはもうそこまで来ている(We are getting very close)」というわけだ。
前代未聞の4文字言葉
さらに、4月5日のトランプ氏のSNS投稿は共和党支持者の一部からも批判された。極めて下品とされる「4文字言葉」を含んだ投稿だったからだ。
英語には「4文字言葉」は複数あるが、その中で一番悪いとされるFから始まる言葉を使い、マイルドに訳せば、ホルムズ海峡について、「あの超いまいましい海峡を開きやがれ、この狂った野郎ども」と書き込んだのだ。
トランプ氏以前であれば、議員であれ、官僚であれ、米国で公人が4文字言葉を使うところを隠し撮りされ、それが表に出れば、一大スキャンダルとなり、謝罪を求められただろう。特に米国において大統領は国父であり、模範的な行動が求められてきた。
しかも、トランプ氏の投稿はキリスト教徒にとっては重要な祭日である復活祭になされた。共和党支持者の中でも眉をひそめた人は少なからずいたとみられる。
岩盤支持層は健在
2期目に入る前のトランプ氏は、外国での戦争は「無駄遣い」というのが持論で、米国が「関与することはない」というのが公約だった。それだけに、トランプ氏の支持基盤である「米国第一主義者」の中にも、対イラン攻撃が長期化することへの批判がじわじわと広がる。

トランプ米大統領(右)と会談に臨んだ高市首相(3月、ワシントンのホワイトハウスで)
では、トランプ氏の支持率はどうなっているのか。
リアルクリアポリティクスが、4月8~23日に実施された各種世論調査の平均値を出した数字を見れば、支持は40.5%、不支持が57.7%だ。元来、トランプ大統領の支持率は高くなく、4割前後ということを勘案すれば、じりじりと低下しているとはいえ、大幅に下がったとはまだ言えない。
5月の訪中、7月の建国250周年、11月の中間選挙に向け、トランプ氏が今後、どう出るのか。確実なのは、米国内の世論を本人も注視しているということだ。←引用終わり